伝統技術の継承と革新
吉田兼好の徒然草に「家の作りは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住める。暑さを防げない家は耐え難い事である。」という一文があります。
これは家というものは夏の暑さを考えて作りなさい。冬の寒さはいかようにも耐えられるが、夏の暑さは耐えがたいという意味です。このように人々は昔から快適な家のあり方について日々考えてきました。そしてすぐれた技術を脈々と受け継ぐ職人たちが知恵を絞り、工夫を重ね、実直に日本の家を作ってきました。
ところが良いことなのか悪いことなのか時の移り変わりの中、職人達の仕事も変わってきました。それは家を構成する部材の工業化、規格化により職人の技量や手間がだんだん必要とされなくなっているからです。それにより画一的で早く性能にばらつきのない家が生産されるようになりました。それは時代の流れに沿った経済的で高品質の家作りなのだと思います。
しかし同時に職人達のすばらしい技術の衰退と継承がなくなりつつあるのも事実なのです。私は優れた職人の手による味わい深い作品は使う人、見る人に必ず感動を与えると思います。この優れた職人の技術と現代技術によってもたらされたさまざまな要素を融合させる事で、お客様だけの独創的で快適な現代の日本の家が生み出されると確信します。
外観
数奇屋作りを基本とし金属葺きの大屋根、水平に伸びる下屋、限りなく黒に近い深みのある灰色の外観がシャープな印象を与える。
アプローチ
お客様をまずお迎えする空間。京すだれが落ち着きをもたらし玉砂利敷きの中の踏み石を配した伝統的な格式を重んじたアプローチ。濡れ縁に腰掛け和の情緒を感じながらゆっくりと出来る空間。
玄関・土間
正面に飾り棚を配し季節の花を飾るなど、日本の伝統、室礼(しつらい)でお客様をおもてなしする心が感じられる空間。造作材に桧、ケヤキ、サルスベリ、桜皮付き丸太、壁はジュラク塗りなど素材を厳選し職人の手仕事により作られた空間。障子からは丸窓の影が映り、あければ庭が垣間見れる。木格子の腰掛けはちょっとしたお客様ともゆっくり語らいたいとの住まい手の配慮が感じられる。天井は昔ながらの数奇屋建築を踏襲する掛込み天井。茶室の天井として千利休が完成したと伝えられる。この天井は折上げ部分で主と従に区別されるといわている。
廊下
玄関ホールより坪庭まで延びる空間。 天井は照明ボックスを造作し和の持つシンプルさと精巧さを両立させた。 LDKに入る扉は和紙張りの引き分け戸とし丸くくり貫いた壁から傾く(かぶく)派手なオレンジの和紙が見える様は遊び心と非現実的な印象を与え次の部屋への期待感を持たせる。
和室
縁側があることにより玄関ホールから90度に広がる和室の間取りが格式を大切にする住まい手の心を感じさせる。 床の間は玉砂利敷きとし正式なものから少しくずした草体の床の間が和の持つ無限の可能性を感じさせる。 床の間の横に付け書院を配し障子を通じて柔らかな光を取り入れる。 天井は伝統的な船底天井。中央部に職人の手による繊細な細工(さいく)と現代の優れた特性を持つ素材により生み出された照明が伝統と革新の融合を感じさせる。 障子は伝統的なデザインのふき寄せ障子を基本とし取っ手のデザインを現代風にアレンジしている。
坪庭
玄関から廊下の奥に見える幻想的な坪庭は意図的に廊下を暗めにし、逆に坪庭は天窓からの光を取り入れ明るく柔らかに光る演出をした。 坪庭の構成は青竹、景石、鬼瓦、杉苔、玉砂利敷きとし、一風変わっているが和を十分に感じさせ、メンテナンスも容易な乾式の庭とした。
トイレ
階段とスリットで区切られたトイレは黒の床と漆黒の陶器で作られた便器、天井や壁にも職人の造作をふんだんに取り入れた。毎日使うこの空間が豊かで落ち着きのあるものでありたいとの願いをこめた。
階段
縦に並ぶ柱を中心にタモ集成材を加工し大工の手で一つ一つ精巧に造作された階段。
LDK
廊下の丸い扉を開けるとそこは明るい白の空間が広がる。和とは対照的なモダンな近代的な空間が生活に豊かさと心地よいリズムをもたらす。
LDKに島のように浮かぶアイランドキッチンと大きなセンターテーブルが家族やゲストと過ごす楽しい語らいの時を演出する。